鼬の盗兵衛 『世は情け 浮名の横恋慕』

  
  
問われて名乗るも おこがましいが
生まれは 相州 裂の口        (注:裂の口=さくのくち)
山姥川で 産湯をつかい       (注:山姥川=やまんばがわ)
大樹のほらを 宿りとし
がきのころから 一人きり
母親代わりは 与太ノガラス
狸のヌケゾウ 親父代わり
三つのときから 盗み知恵
たっぷり ごっそり つけられた
街道一の ぬすっとだあ
関所 奉行所 代官屋敷 金貸し 商人 かたっぱし
騙し 盗みは 何処でもやるが    (注:騙し=だまし)
庶民のお宝 盗まない
こいつが たった一つの自慢
イタチのトウベイたあ オレのことだあ
  
夏も近いのに うそ寒く
霧雨けぶる 宵の口
水飲み百姓 たご作が
自慢の娘 おさきちゃん
その美しさに 目をつけた
代官の息子 苦素太郎        (注:苦素=くそ)
苦さの素の 悪いやつ
夕闇せまる 街道沿いで
まさかに おさきに ストーカー
不埒にも 代官屋敷へ 拉致したりい  (注:不埒=ふらち)
気付いた たご作 屋敷へ行けば
中間小者に 青竹で          (注:中間=ちゅうげん)
叩きのめされ 青息吐息
噂を聞いて 鼬の盗兵衛
代官屋敷へ 忍び込むう
  
忍びの術は ヌケゾウ伝授
額に木の葉を ちょいと乗せ
チチンプイプイ ドロリンコ
この葉隠れに 姿を消して
中間の目の前 堂々と
咳払いして 通りすぎる
ごほんと一つ りゅうかくさん
イヤ ・・・ 気がついて
中間 きょときょと 見回すが
どっこい見つかる ものじゃねえ
盗兵衛 不敵に ニタリと笑い
代官屋敷へ 上がりこむう
  
迷路のように 廊下が走る
代官屋敷の 奥の奥
おさきは あわれ座敷牢
与太ノガラスに しこまれた
カラスの嘴 合鍵の術
釘一本で チョチョイと 外し
おさきを牢から 連れ出したあ
  
その時 人がくる気配
障子の裏に おさきを隠し
廊下に踏み出しいでて 見れば
苦素太郎めが 鯉口を切り
『曲者じゃあ  出会え であえ
と 大音声
・・・見える訳ないが・・・
ハッと気がつき 額にふれれば
唾が乾いて 葉が 落ちていた
覚悟を決めた 鼬の盗兵衛
  
腰抜け侍にゃ ひけとらぬ
ちょうちょうはっしと 切り結び
チョチョンガチョンと 二三人
やったと思った その時に
障子の裏から たまぎる悲鳴
盗兵衛 障子を開いて見れば
おさきに抱きつく 苦素太郎
その床の間の 活け花は
あな ありがたや 椿の一輪
鼬の盗兵衛 その葉をちぎり
額にぴたりと 貼り付けて
姿隠して もうひと暴れ
  
最後は イタチの隠し技
ブワッ スッカア ペーイッ
最後屁をば ぶちかます        (注:最後屁=さいごっぺ)
半端いばりの 侍どもが
涙 洟 ダラダラ流し          (注:洟=はなみず)
苦しむさまを 尻に見て
臭さに 気絶の おさきをかつぎ
代官屋敷を あとにした
  
そのまま おさきを 家まで運び
鼬の盗兵衛 名前も告げず
あっという間に 姿を隠す
結局 おさきは 盗兵衛の
姿かたちも 覚えぬまんま
  
盗兵衛が 朧の月を ふと 見上げ (注:朧=おぼろ)
思わず言った 一言は
『いい 娘 だったよ なあ
  
鼬の盗兵衛 一代記
これから いかが あいなるか
またの御出での お楽しみい

  チョン    チョン  チョン チョンチョンチョン   チョーン

      【2004.07.05 UP】